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「スポーツ宣言日本」への期待 ―スポーツミッション達成のための戦略と連携
 ※平成25(2013)年1月発行のSports Japanに掲載したものです

カギ握る「スポーツ庁」と「広報」

佐伯
人材もそのひとつですが、スポーツ資源がいまの日本にどれくらいあるかも、宣言実現へ向けての問題になると思います。スポーツ需要に対して資源をどうコーディネートすればいい絵が描けるか。

鈴木
釈迦に説法かもしれませんが、私は「校庭」を「市民の庭」に変えるべきだと思っています。NPO法人にお任せして、朝の6時から、ナイター設備をつけて18時間ぐらい稼働してもらえるようにする。学校は「市民の庭」から体育の時間は最優先で借りる形で。それ以外は市民団体が自由に使えるということになれば稼働率はいまの10倍ぐらいになります。

遠藤
私もそう思いますね。

佐伯
スポーツ全体でも大きな変化が起こり始めています。例えばスポーツ用品用具の売り上げで見ると、これまで一番だった競技スポーツ用品用具がエコロジカルスポーツ(※競争を目的としないで自然のなかでのんびり楽しむスポーツ)用品用具に抜かれていますが、そこにスポーツ需要の変化が見られます。ところが日本にはそうしたスポーツの現実に対応する政策立案のためのシンクタンク的なものがありません。

河野
ご指摘の通りだと思います。国や政府、アスリートが使えるようなデータをきちんと整理してインフォメーションにして渡すことができる組織の必要性を感じます。まだ枠組みしかありませんが、日本スポーツ振興センターはそれに取り組む組織のひとつを目指しているところです。

鈴木
本当にそうですね。100年経った日本のスポーツ、あるいは50年を経てスポーツ振興法から基本法に変えたいまこそ、これから50年、100年のスポーツコミュニティ全体のガバナンスをどのようにしていくか。そのことを担うシンクタンクが必要ですが、そのための人材も養成すべきです。

河野河野
いまやるべき重要なことは、基本法に書いてある4団体、日本体育協会、日本オリンピック委員会、日本障害者スポーツ協会、そして日本アンチ・ドーピング機構のそれぞれのミッションと役割をもう一度見直すことではないかと、個人的には思っています。
2001年にゴールドプランをつくったコンセプトは、当時は基本法も基本計画も存在しなかったなかで、一競技団体ではできないことをJOCが行う必要があったからです。それから10年経ち、いま基本法と基本計画をつくっていただいて、また宣言も出て考えることは、例えば、JOCや日体協、あるいは障害者スポーツ協会も、それぞれの組織にしかできないことを分析し、明確化することによって、先ほど佐伯さんがおっしゃった現在のスポーツ需要への変化を理解し、柔軟に対応できるのではないかと思います。

三屋
スポーツ界の言葉と一般の言葉は違うとよく言われますが、スポーツ宣言にしても、基本法や基本計画にしても、もうちょっと広報活動を上手にやる必要があります。企業の場合でしたら、コンプライアンスの部分でも広報はステイクホルダーの方々に対するひとつの誠意としても重要だと言われています。それひとつで企業価値が上がりもすれば下がりもします。だから社長の会見に失敗して消えた会社がいくつもあります。
スポーツ界も勝った負けただけのインフォメーションではなくて、全体としていま何を目指そうとしているのか。100年後の確かな姿を描いて、いくつもマイルストーン(※一里塚)を置いていって、最終的にはここに行きますという積極的な攻めの広報をやってもいいのかなと思います。それに宣伝と違って、広報にお金は掛かりませんし。

遠藤
企業の場合だとお客さんがいかに評価してくれるかを前提にして活動するけれども、スポーツはやっている人が楽しいから、まだどんぶり勘定で、親分子分の世界の自己満足に終わっています。まだ社会全体を見ていない、エンドユーザーを見ていない。せっかくいい法律をつくっても、自分たちでは分からないから役人に広報を任せています。そうしたことの反省も含め、我々はもう一歩踏み出していかないと、本当のスポーツ組織にはならないのかなと、いま改めて思いました。

三屋
ぜひ政治家の方にやっていただきたいことがあります。学校の保健体育の時間に、必ず一回は基本法とスポーツ宣言を学ぼうよというのを入れ込んでしまう。そうすると子どもたちが理解し、それ以前に先生方が分かり、そうすることで基本法が自分モードになっていきます。最高に有力な広報だと思います。

鈴木
それは早速やりましょう! いい提案ですね。

スポーツで新しい国づくり

遠藤
スポーツ団体のみなさんからいろいろな提案もいただきたいと思っていますが、国としては、スポーツの効用を示しながらスポーツ振興に取り組み、スポーツを通じての社会貢献や国際貢献もあるような、そういう政策を具体的に打ち出していく。そのひとつとして「スポーツ庁」をつくる。スポーツ庁の下にスポーツコミッションをつくる。そのための税や予算や、あるいは法律などいろいろなものを変えることが必要です。国のなかで評価される組織づくりを目指すわけですから、いろいろな政治家と一緒になってつくりたいな、と。

鈴木
まさにスポーツ立国戦略なわけで、スポーツを通じて新しい国づくりをしていこうということです。結局スポーツ庁ができる。そうすると長官は少なくとも3回に2回は民間登用されることになる。それをサポートする内外の人材とそのネットワーク。外で支えるシンクタンクも必要で、そのなかから長官を支える人材も出てくる。私はそういう人材の重要性を申し上げたい。人材育成は直ちにはできません。この国にはスポーツ資源は人材も含めてすごく多くあるのですが、みんながひとつにつながっていない。スポーツ界のいろいろな協会の長にある人がこうした実態を理解し、そこに当たり前に世間の風を入れていくことです。それらすべての軸、御旗として「スポーツ宣言日本」ができたので、ここからムーブメントを起こしていく。きっかけとして、東京オリンピック・パラリンピックの招致ができればいいし、そのことを通じて東日本の復興もできていけばいいし、ぜひ頑張っていきたいと思います。

三屋
三屋
競技団体のいろいろな協会がありますが、どうしてもボランティア活動的なところが多く、つまり現役をリタイアされた方がある程度動かしていらっしゃいます。その結果、前例主義で改革に消極的になり、前年予算通りにそのまま赤字にならないような運営をした人が優秀といった風潮に陥っています。今回みなさんがお話しになったような、国がかかわる大きなグランドデザインがあることを知って、私は少し明るい気持ちになりました。この国のスポーツは変わらないだろうなと思うところがあったので、それが主体的に変わるために何をするか考えるためのひとつのいいきっかけになりそうです。これから日本も、スポーツ選手たちに企業に行ってもらいたいし、逆に企業からスポーツ団体へ入って企業論理も加えてスポーツ運営をしていくと、少しずつ変わっていくのかなと思います。

河野
国が基本法や基本計画に基づいて政治を実行していくときに、機動的に動くことができる、あるいは動かなければいけないのが、政府でも民間でもない日本スポーツ振興センターではないかと考えています。しかし、例えばサッカーくじの問題にしても、いまいろいろなミッションをいただいています。それを具体化していくことによっておそらく、宣言に記されているグローバルな課題を直視しながら、競技力だけでなくコミュニティ、地域と3つに取り組みながら、スポーツのコアバリューをもう一度見直して、スポーツの力を分かりやすく伝えていければと思います。

佐伯
スポーツの発展をよりよい社会づくりに結びつけようという宣言の達成に向けて、みなさんが大きな期待を持たれていること、そして惜しみない支援を考えていることがよく分かりました。今日は貴重なお話を有難うございました。

【座談会出席者】

左から、
河野 一郎氏(日本スポーツ振興センター理事長)
遠藤 利明氏(自民党衆議院議員)
佐伯 年詩雄氏
(日本ウェルネススポーツ大学教授)
鈴木 寛氏(民主党参議院議員)
三屋 裕子氏(スポーツプロデューサー)

※所属・役職は座談会当時のものです。