スポーツ現場における熱中症予防に関する実態調査(2024年)
2024年2月、日本スポーツ協会公認スポーツ指導者を対象に、「スポーツ現場における熱中症予防に関する実態調査」を実施しました。その調査結果(速報)についてご紹介します。
1.調査概要
2.調査結果(速報)
1)スポーツ活動中の熱中症対策
実践している方法
(%)
水分補給 |
98.9 |
体調チェック |
73.8 |
飲水タイムの設定 |
67.9 |
運動量・強度の調節 |
67.2 |
活動時間の変更 |
45.2 |
身体冷却 |
44.9 |
暑熱順化 |
22.0 |
その他 |
4.5 |
※複数回答可
水分補給に関する指導内容
(%)
|
2024年 |
1997年 |
一定時間毎に飲む |
80.3 |
28.1 |
練習前に飲む |
52.3 |
7.4 |
選手の判断に任せる |
49.0 |
72.9 |
飲み過ぎないように配慮する |
28.0 |
43.3 |
練習前後の体重変化を目安にする |
7.9 |
3.5 |
その他 |
3.1 |
1.6 |
※複数回答可
- スポーツ活動中の熱中症対策について、「水分補給」はほとんどの指導者が実践していた(98.9%)が、「活動時間の変更(45.2%)」、「身体冷却(44.9%)」や「暑熱順化(22.0%)」については、今後啓発するべき課題と考えられる。
- 水分補給に関する指導内容について、1997年の調査では「選手の判断に任せる」と回答した指導者が最多(72.9%)で、「練習前に飲む」と回答した指導者は少なかった(7.4%)。一方、2024年調査では、「一定時間毎に飲む」と回答した指導者が最多(80.3%)で、「練習前に飲む」と回答した指導者は1997年と比較して大幅に増加した(7.4%→52.3%)。なお、「練習前後の体重変化を目安にする」と回答した指導者の割合は、1997年と比較して大きな変化が見られなかった(3.5%→7.9%)ため、今後啓発するべき課題と考えられる。
2)身体冷却
実践している方法:外部冷却
(%)
頭部・頸部冷却 |
75.3 |
アイスパック |
62.9 |
送風 |
61.6 |
手掌冷却 |
32.1 |
アイスバス |
11.6 |
クーリングベスト |
5.5 |
その他 |
2.8 |
※複数回答可
実践している方法:内部冷却
(%)
水分補給 |
94.6 |
アイススラリー |
13.8 |
その他 |
0.6 |
※複数回答可
- 外部冷却の方法について、「頭部・頸部冷却」が最多であった(75.3%)。一方、「手掌冷却(32.1%)」や「アイスバス(11.6%)」は少数だった。例えば「アイスバス」は、現場で環境を整えることが難しいかもしれないが、競技特性や環境を考慮したうえで複数の身体冷却法を組み合わせることが重要と考えられる。
- 内部冷却について、「水分補給」はほとんどの指導者が実践していた(94.6%)。一方、「アイススラリー」は少数だった(13.8%)ことから、競技特性や環境に応じて取り入れることが重要と考えられる。
3)暑熱順化
暑熱順化を実施している?
(%)
|
2024年 |
1997年 |
実施している |
45.0 |
22.4 |
実施していない |
55.0 |
77.6 |
暑熱順化:実施期間
(%)
1〜2日 |
33.6 |
3〜5日 |
31.7 |
6〜7日 |
15.6 |
8日以上 |
19.0 |
暑熱順化:練習方法
(%)
|
2024年 |
1997年 |
運動強度↓ × 練習時間↓ |
34.1 |
17.5 |
練習時間= × 運動強度↓ |
24.2 |
35.0 |
運動強度= × 練習時間↓ |
19.7 |
36.3 |
休憩時間↑ |
19.1 |
7.5 |
その他 |
2.9 |
3.8 |
- 暑熱順化を「実施している」と回答した指導者の割合は、1997年と比較して大幅に増加した(22.4%→45.0%)が、いまだ半数以上の指導者が「実施していない」状況にあった。
- 暑熱順化に必要な期間は一般的に5日間を要するが(熱中症予防ガイドブックp38参照)、暑熱順化の実施期間について「1〜2日」と回答した指導者の割合が最多であった(33.6%)。
- 暑熱順化のための練習方法として、1997年の調査では多くの指導者が、「運動強度のみを落とす:練習時間=×運動強度↓(35.0%)」あるいは「練習時間のみを短くする:運動強度=×練習時間↓(36.3%)」と回答したが、2024年の調査では多くの指導者が、「運動強度を落とし練習時間も短くする:運動強度↓×練習時間↓(34.1%)」と回答した。
4)選手の健康チェック
健康チェック実施頻度
(%)
|
2024年 |
1997年 |
毎日行っている |
54.9 |
45.5 |
時々行っている |
33.4 |
45.3 |
行っていない |
10.2 |
9.2 |
その他 |
1.5 |
- |
健康チェックの方法
(%)
|
2024年 |
1997年 |
選手本人に聞く |
77.1 |
62.1 |
選手の動きや顔色を見て指導者が判断する |
70.6 |
80.6 |
選手本人にチェックリストへ記入させる |
18.5 |
30.3 |
体重測定 |
7.7 |
27.0 |
医学的な検査を行う |
2.1 |
18.2 |
特に配慮していない |
- |
2.7 |
その他 |
3.3 |
6.0 |
※複数回答可
- 健康チェックについて、「毎日行っている」と回答した指導者の割合は、1997年と比較して9.4ポイント増加した(45.5%→54.9%)が、いまだに少なくない指導者が毎日は実施しておらず、今後啓発していくべき課題と考えられる。
- 健康チェックの方法として、「選手本人にチェックリストへ記入させる(18.5%)」や「体重測定(7.7%)」について少数であったことから、今後啓発するべき課題と考えられる。
5)熱中症予防運動指針(WBGT)の活用
熱中症予防運動指針を知っている?
(%)
よく知っている |
14.2 |
ある程度知っている |
51.7 |
少し知っている |
24.9 |
知らない |
9.1 |
日頃のスポーツ活動においてWBGTを活用している?
(%)
指導現場でWBGTを測定している |
26.9 |
環境省等が公開するWBGT予測を活用している |
32.1 |
乾球(湿球)温度計を用いて測定している |
20.5 |
活用していない |
34.5 |
その他 |
1.1 |
※複数回答可
WBGTに基づく対応
(%)
WBGT31度以上ではスポーツ活動を中止している |
24.8 |
WBGTに基づいて活動内容を調整している |
61.7 |
活動内容の変更等は行わない |
16.8
|
その他 |
4.0 |
※複数回答可
- 熱中症予防運動指針を「少し知っている(24.9%)」あるいは「知らない(9.1%)」と回答した指導者が少なくない割合であったことから、今後啓発するべき課題と考えられる。
- 日頃のスポーツ活動においてWBGTを「活用していない」と回答した指導者の割合が最多であり(34.5%)、スポーツ現場でWBGTを測定する環境が整っていないことが想定された。
- 多くの指導者がWBGTに応じて、「スポーツ活動を中止(24.8%)」あるいは「活動内容を調整している(61.7%)」が、一方で少なくない指導者が「活動内容の変更等は行わない(16.8%)」と回答されたため、熱中症予防運動指針やWBGT計の活用を啓発していく必要があると考えられる。