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公正で福祉豊かな地域をつくるスポーツ ※平成24(2012)年7月発行のSports Japanに掲載したものです

多様な関係の構築

小倉
私がかかわってきた総合型地域スポーツクラブづくりは、住民参加、住民参画なんです。いままでスポーツに対し受動的だった地域が能動的に少し変わってきているのではないかという気がします。これは、クラブ設立の普及率を云々する前の非常に大きな成果だと思います。だからクラブづくりや運営に取り組む地域の人たちの動きや考え方をもっと一般にアピールしていかなければ、その人たち自身報われませんし、日本のスポーツも変わっていかないのではないかと思います。

佐伯
とかくスポーツ界は、横よりも上か下を見る(笑)。いつもオリンピックを見て、それで腹筋を頑張る(笑)。これしかないままにやってきた。地域のスポーツ団体が婦人団体と一緒にイベントを行うこと自体、やりにくい状況だったと思います。そのへんを少しほぐしていく必要があるでしょうね。このスポーツ宣言にしても、この実現をスポーツの力だけではできるわけがないのであって、同じ良い方向を求めて志を持ってやっている外の人たちと一緒に取り組む必要がたくさん出てくるはずです。

仲澤
本当にその通りだと思います。スポーツがスポーツだけで孤立してしまう場面がいままでありました。でも最近はスポンサー対応などかなり上手になってきて、地域で行政支援を得るためにNPOをつくるなどスポーツ界もこれまでと違う力もつけてきています。だからスポーツがその魅力や特性でイニシアチブをとれる範囲で、社会教育団体や福祉団体と組むイベントなど、その活動を広げていくことが必要だと思います。

小倉
でも総合型地域スポーツクラブづくりで一番競合するのは、同じスポーツ団体です(笑)。競技団体からは、あんなものに参加したらレベルが下がるとまでいわれました。地域の公共団体や学校へも出向いて行きましたが、非常に厚い壁がありました。

佐伯佐伯
例えば障がい者の人たちにとってスポーツはまずリハビリだという捉え方が当然あるでしょう。もちろんそれを尊重しながら、スポーツはだれがどんなレベルでも、いま持っている力で充分に楽しくやれることなんですよというメッセージを、スポーツ界が送ることによって、これまでと違う捉え方をしてもらえるようになると思います。単に考え方が違うから別れるのではなく。

髙倉
私は現役を長く続けましたが、いつも他のところに目を向けていました。ジャンルが違ういろんな人たちと会う機会を大切にしました。そこでお互い話してみると、「変わりはないな」と。みんな何かを目指して生きていく上で同じマインドなんです。そこをまずフラットに理解して、お互い自分がもらえることも与えることもあると、ギブアンドテイクを共有できればいいのかな、と思います。

仲澤
人が共感できる部分でつながる、これはスポーツのすごくいい機能ですね。強くするためのスポーツだけではなく、人間としてのふれあいといったことを、スポーツにかかわる人はもっと考えていくべきです。そうした主張と実践を続けていくと、より広くスポーツが理解されるのではないかと。

震災、地域、そしてスポーツ

佐伯
震災と地域とスポーツ、この3つをつないだとき、このスポーツ宣言の一、は、かなり応えられるものを持っていると感じます。福島ご出身の髙倉さんいかがでしょうか。

髙倉
残念ながら福島は、震災で世界にはマイナスの方向で名前が広がってしまいました。そんななか被災地域でサッカーのスクールをやったりしました。スポーツが一番わかりやすいのは、「勝った! 負けた!」でみんなワッと、モヤモヤを外にはき出せる点です。そのことを本当に感じました。

小倉小倉
スポーツが好きな人は、我を忘れて動く力があるんですね。例えば日体協を通じて募金支援をお願いしたら、すぐに反応してくれるクラブがたくさんありました。宮崎から車をチャーターして、物資を積み込んで何度も往復して来たり。福島の総合型の人たちが立ち上がってボランティアをまとめていったり、非常に嬉しいニュースがたくさんあります。

仲澤
勤務する大学で、運動部単位で災害ボランティアへ行くなどすごく運動部が機動力を発揮しましたね。ふだんからコミュニティの大切さを実感していたんだと思います。

佐伯
決して望んだケースではありませんが、震災を通して人を結びつけるスポーツの力が見られたということでしょう。そして、スポーツに打ち込む自分が、いつか人の役に立っている、世の中を良くすることにつながっていると、多くのアスリートが実感し、自らのミッションとして自覚したのではないでしょうか。

髙倉
小さい頃からスポーツは一生懸命になれて楽しいし、おじいちゃんもおばあちゃんも嬉しいし、地域の人も応援してくれて社会にも貢献できるものなんだということを、大人が伝えていかないといけないですね。

仲澤
我々学校現場でも、指導者の卵にこういう話をしていくなど、この宣言を契機に進めたいと思います。

小倉
私どもは全国スポーツクラブ会議という全国会議を立ち上げました。みなさん自前で参加していただける会議です。そういう場でこの宣言とその趣旨についてお伝えできればと思います。そして日本のスポーツにかかわっていらっしゃる方々が宣言を正しく理解し、より多くの人々に伝えていっていただければと願います。

佐伯
復興に貢献するアスリートの姿から、スポーツが自己満足から自己実現へ、そしてミッションを自覚的に担うものへと発展する可能性がうかがえたのですね。それはこの宣言が求める姿そのものですね。この輪をより大きく育てて行くことが私たちの役割だと思います。本日は、どうもありがとうございました。

【座談会出席者】

左から、
仲澤 眞氏(筑波大学大学院准教授)
小倉 弐郎氏
(総合型地域スポーツクラブ全国協議会幹事長)
佐伯 年詩雄氏
(日本ウェルネススポーツ大学教授)
髙倉 麻子氏(サッカーU17日本女子代表コーチ)

※所属・役職は座談会当時のものです。