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特別企画 国民体育大会改革のいま―オリンピック競技種目の新規導入について

 現在進められている国民体育大会(以下、国体)の改革。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催決定を受け、その改革の一環として、日本スポーツ協会では「国民体育大会における2020年オリンピック対策・実行計画」を策定した。国体未実施のオリンピック競技種目について、今後、国体への順次導入が進められることとなる。そこで今回の特別企画では、その話題を中心に、「国体改革のいま」を取り上げる。
(注)本特別企画は日本スポーツ協会発行情報誌『Sports Japan』Vol.15に掲載したものです。


第1部

松丸喜一郎氏(国体委員会委員)に聞く
「オリンピック競技種目導入」の意義

国民とスポーツ

そして地域と世界をつなぐ国体へ

 さまざまなテーマに取り組んでいる国体改革。財政面を含めた開催地の負担軽減など、「スリム化」もテーマの一つだ。そのようななかで決まったオリンピック競技種目導入のもつ意義は何か―。国体委員会委員であり、日本オリンピック委員会(JOC)理事、日本ライフル射撃協会専務理事も務める松丸喜一郎氏に話を伺った。



誰もが楽しめる―

それが国体のあるべき姿

 今回、これまで国体で実施されていなかったオリンピック競技種目を新たに導入していくことが決まりました。日本が誇るオリンピック金メダリスト、女子レスリングの吉田沙保里選手が唯一取っていない優勝メダルは、国体だといいます。考えてみれば、日本最高峰のスポーツ大会である国体に、日本のトップアスリートが出られない競技種目があることに競技の普及の面で課題があると思います。

 実行計画では、今年の長崎国体、来年の和歌山国体についてはイベント事業としてスタートします。そして再来年の岩手国体から、各開催地と検討・調整のうえ、条件が整った競技種目から順次、天皇杯と皇后杯の得点対象となる正式競技種目に採用していく予定です。

 いま、スポーツに関する国民の目は、オリンピックを頂点とした国際大会におけるトップアスリートの活躍に集中しています。一方で、国内最高峰の競技会であるはずの国体は、残念ながらあまり注目されていません。そこで、まずは2020年の東京オリンピックを目指して新たにオリンピック競技種目を導入し、トップアスリートやタレント性のある若手選手が参加し、参加者はもとより、それを送り出す地域、あるいは迎え入れる地域の方々まで、誰もが楽しめる大会にする――改革テーマの柱の一つでもある「地域の活性化」も念頭に、日本最高の大会としての国体本来のあるべき姿、魅力のある姿に進化させていくことが、第一の狙いです。

 
主なターゲットは「ジュニア層」と「女子」

 JOCは地方組織をもっていません。ですから、全国各地で幅広くタレント発掘・育成・強化を担っているのは日本スポーツ協会や都道府県体育(スポーツ)協会、さらには各競技団体の地方組織ということになります。

 そうした場で発掘された選手が、中学、高校、大学、社会人と育成されるなかでJOCの強化対象となっていくわけですが、現在はジュニア期から世界のトップレベルで活躍する選手が数多く現れています。「タレントの発掘・育成・強化」も国体改革の一つのテーマですが、国体にオリンピック競技種目が導入され、国体を通したジュニア層からの発掘・育成が実現すれば、それだけトップアスリートを強化できる環境が整います。これはJOCとしても非常にありがたいことです。

 また、国際オリンピック委員会(IOC)は女子のオリンピック種目を積極的に増やしており、ゆくゆくは男女が同人数で参加できるようになることを目指しています。ですから、おそらくは各競技の国際大会もそうなっていくはずです。

 具体的な数字をあげると、’08 年の北京オリンピックでは男子の競技種目170に対し、女子は132でした。しかし4年後のロンドンでは、男子168に対し女子が138で、その差が30に縮まっています。2年後のリオデジャネイロではさらに縮まるでしょうし、東京では同数を目指すことになるかもしれません。

 この「ジュニア層」と「女子」という柱が、今回の決定の大きなターゲットといえます。国体に、とくに女子の新しい競技種目が増えることでその強化が活性化すれば、メダル獲得の可能性が高まるはずです。当然、そのことによって競技種目の普及が図られ、発掘・育成・強化の環境も整います。その点で国体(日本スポーツ協会、競技団体)とJOCの目的が見事に合致しているのです。

新競技種目導入にみる国体の新たな意義

 国体はそもそも、戦後復興の面から、スポーツの力で国民に元気になってもらう、また戦禍で失われたスポーツを楽しむ設備・環境を地域に整える、という意義でスタートしました。しかし開催が2巡目を迎えたいま、そのあり方も変わりつつあります。

 スポーツ基本法でスポーツを楽しむことが国民の権利であるとうたわれ、日本におけるスポーツの価値そのものが変わりました。また、’11 年の東日本大震災を契機に、国民の誰もがスポーツの力を再認識したはずです。だからこそ、都道府県対抗のような、皆さんが楽しめる部分はしっかりと残しつつも、国体も変わっていかなければなりません。

 私は、スポーツとは本来楽しむものであり、また誰もが楽しめるものであると考えています。一方で、残念なことに、依然としてスポーツに慣れ親しんでいない方も多くいらっしゃるのが現状です。

 そんななかで、冒頭の吉田沙保里選手の話は象徴的ですが、オリンピック競技種目の導入により、皆さんが慣れ親しんでいる競技種目と国体をしっかりとリンクさせる。日本スポーツ協会とJOCがともに目指す、スポーツの普及・振興・推進・強化という点でも、日本を代表する、あるいはこれから世界に飛躍しようとするトップアスリートが国体に出場すれば、選手の地元の方々やアスリートを迎える開催地の方々は、いま以上にスポーツに親しみ、楽しめる環境が増えるでしょう。国体と皆さん、そして国体と世界の舞台がリンクするのです。

 大会の運営サイドの人材を育成するという点でも、国体には大きな役割があります。’20 年の東京オリンピック・パラリンピックが素晴らしい大会だったと国内外で評価されるためには、選手たちの活躍に加えて、円滑な大会運営が重要です。そのためには審判をはじめ、役員や運営スタッフもしっかりと育成していかなければなりません。その育成の場でもあるのです。

 繰り返しますが、国体は日本最大のスポーツの祭典であり、最高峰の競技大会です。そして国民、つまり皆さんの誰もが実際に触れることのできる大会です。選手として参加することはもちろん、指導者としてそこに選手を送り出すこと、また関係者として大会を運営したり補助したりすることに誇りをもって、そして楽しんで取り組んでいただきたいと思います。これからも続いていく国体を、皆さん一人ひとりに支えていただきたいのです。

 ’20 年、そしてそれ以降に向け、まさにいま国体を大きく変えるチャンスです。そんな地域と世界、そして地域の人々とスポーツをつなぐ、新たな国体を創造していきます。

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