スポーツ宣言日本 -21世紀におけるスポーツの使命-(全文)

   平成23(2011)年7月に創立100周年を迎えた本会は、日本オリンピック委員会(JOC)とともに、新たな100年に向けて、嘉納治五郎初代会長が「設立趣意書」に表した志を受け継ぎ、その現代版ともいうべき「スポーツ宣言日本」を取りまとめ、公表しました。
   全文は以下のとおりです。


   本宣言は、日本のスポーツ100周年を記念して、先達の尽力をたたえ、その遺産を継承し、更なる100年の発展を願う日本スポーツ界の志を表明するものである。
   日本体育協会、日本オリンピック委員会の母体である大日本体育協会は1911年に創立され、日本のスポーツは、初めて全国的なまとまりをもつに至った。また、翌年、同協会はアジアで初めての代表選手団をオリンピック競技大会に派遣し、日本のスポーツは国際的にもその地位を確立したのである。
   大日本体育協会の創立に際して、創設者嘉納治五郎は、国民体育の振興とオリンピック競技大会参加のための体制整備をその趣意書に表した。本宣言は、この趣意書の志を受け継ぎ、新たな100年に向けた21世紀スポーツを展望する視点から、それを現代化したものである。
   なお、本宣言は、記念事業のスローガンである「誇れる未来にあらたな一歩」を導くために、「日本のスポーツ100年 これまでとこれから」をテーマに、福島、京都、広島の3会場で行われたシンポジウムの成果を基に、加盟団体とパブリックコメントに寄せられたスポーツ愛好者等の意見を21世紀におけるスポーツの使命に集約し、東京総括シンポジウムにおいて協議、採択したものである。


   スポーツは、自発的な運動の楽しみを基調とする人類共通の文化である。スポーツのこの文化的特性が十分に尊重されるとき、個人的にも社会的にもその豊かな意義と価値を望むことができる。とりわけ、現代社会におけるスポーツは、暮らしの中の楽しみとして、青少年の教育として、人々の交流を促し健康を維持増進するものとして、更には生きがいとして、多くの人々に親しまれている。スポーツは、幸福を追求し健康で文化的な生活を営む上で不可欠なものとなったのである。
   既にユネスコは、1978年の「体育とスポーツに関する国際憲章」において、スポーツが全ての人々の基本的な権利であることを謳っている。しかし、今もなお、様々な理由によりスポーツを享受できない人々が存在する。したがって、遍く人々がスポーツを享受し得るように努めることは、スポーツに携わる者の基本的な使命である。
   また、現代社会におけるスポーツは、それ自身が驚異的な発展を遂げたばかりでなく、極めて大きな社会的影響力をもつに至った。今やスポーツは、政治的、経済的、さらに文化的にも、人々の生き方や暮らし方に重要な影響を与えている。したがって、このスポーツの力を、主体的かつ健全に活用することは、スポーツに携わる人々の新しい責務となっている。
   この自覚に立って21世紀のスポーツを展望するとき、これまでスポーツが果たしてきた役割に加えて、スポーツの発展を人類社会が直面するグローバルな課題の解決に貢献するよう導くことは、まさに日本のスポーツが誇れる未来へ向かう第一歩となる。
   このことに鑑み、21世紀における新しいスポーツの使命を、スポーツと関わりの深い3つのグローバルな課題に集約し、以下のように宣言する。

一. スポーツは、運動の喜びを分かち合い、感動を共有し、人々のつながりを深める。人と人との絆を培うこのスポーツの力は、共に地域に生きる喜びを広げ、地域生活を豊かで味わい深いものにする。
 21世紀のスポーツは、人種や思想、信条等の異なる多様な人々が集い暮らす地域において、遍く人々がこうしたスポーツを差別なく享受し得るよう努めることによって、公正で福祉豊かな地域生活の創造に寄与する。

二. スポーツは、身体活動の喜びに根ざし、個々人の身体的諸能力を自在に活用する楽しみを広げ深める。この素朴な身体的経験は、人間に内在する共感の能力を育み、環境や他者を理解し、響き合う豊かな可能性を有している。
   21世紀のスポーツは、高度に情報化する現代社会において、このような身体的諸能力の洗練を通じて、自然と文明の融和を導き、環境と共生の時代を生きるライフスタイルの創造に寄与する。

三.   スポーツは、その基本的な価値を、自己の尊厳を相手の尊重に委ねるフェアプレーに負う。この相互尊敬を基調とするスポーツは、自己を他者に向けて偽りなく開き、他者を率直に受容する真の親善と友好の基盤を培う。
   21世紀のスポーツは、多様な価値が存在する複雑な世界にあって、積極的な平和主義の立場から、スポーツにおけるフェアプレーの精神を広め深めることを通じて、平和と友好に満ちた世界を築くことに寄与する。


   現代社会におけるスポーツは、オリンピック競技大会等の各種の国際競技会において示されるように、人類が一つであることを確認し得る絶好の機会である。したがって、スポーツが、多様な機会に、グローバル課題の解決の重要性を表明することは極めて重要である。
   しかし、スポーツに携わる者は、そのような機会を提供するだけではなく、スポーツの有する本質的な意義を自覚し、それを尊重し、表現すること、つまりスポーツの21世紀的価値を具体化し、実践することによって、これらの使命を達成すべきである。その価値とは、素朴な運動の喜びを公正に分かち合い感動を共有することであり、身体的諸能力を洗練することであり、自らの尊厳を相手の尊重に委ねる相互尊敬である。遍く人々がこのスポーツの21世紀的価値を享受するとき、本宣言に言うスポーツの使命は達成されよう。
   スポーツに携わる人々は、これからの複雑で多難な時代において、このような崇高な価値と大いなる可能性を有するスポーツの継承者であることを誇りとし、その誇りの下にスポーツの21世紀的価値の伝道者となることが求められる。

   本宣言は、日本のスポーツ100年の歴史の上に立つ。この100年の歴史は決して順風満帆であったわけではない。本宣言は、苦難の道においてスポーツを守り育てるために尽力した全てのスポーツ人に心より敬意を表し、その篤き思いを継承するものである。したがって、日本体育協会、日本オリンピック委員会は、総力を挙げてこれらの使命の達成に取り組まなければならない。
   そのためには、本宣言及びその趣旨を加盟団体はもとより、広く人々に周知するとともに、長期的な視野と国際的な広がりを展望し、使命の達成に向けた実行計画等を早期に策定し、実施に努めなければならない。
   また同時に、国際オリンピック委員会をはじめとする国際的なスポーツ団体はもとより、国内外のスポーツ関係者とスポーツ組織、さらに国連諸機関、世界中の志あるNGO等と、希望あるスポーツと地球の未来のために連携協力し、本宣言におけるスポーツの使命の達成に努めることが求められる。
   こうした営みが順調で強固なものとして発展するためには、政府及び地方公共団体等の公的諸機関が、これまでの支援に加えて、本宣言の重要性を理解し、積極的に協力、支援することが望まれる。
   最後に、日本のスポーツ100年を記念するこの年に、我が国は東日本大震災という未曽有の災害を被った。亡くなられた多くの方々に深く哀悼の意を表するとともに、本宣言におけるスポーツの使命の達成を通じて、復興を支援し、日本と地球を希望にあふれた未来へと導くことを誓う。


平成23年7月15日
日本体育協会・日本オリンピック委員会
創立100周年記念事業実行委員会
会長 森 喜朗


「スポーツ宣言日本」-21世紀におけるスポーツの使命-
「スポーツ宣言日本」-21世紀におけるスポーツの使命-(英語版)


あなた自身の「スポーツ宣言日本」へ (「Sports Japan」掲載記事)

   平成23(2011)年、創立100周年を迎えた日本体育協会と日本オリンピック委員会は、同年7月に行った記念式典の席上において『スポーツ宣言日本~21世紀におけるスポーツの使命~』を発表した。
   この宣言は、100年にわたり日本のスポーツが積み重ねてきた歩みをもとに、次の100年をどのような考え方に立ちどこへ向かって進んでいくべきかの指針を示すとともに、日本のスポーツにかかわるすべての人々に、「スポーツとは何か」について自発的に考えるヒントを提供している。
   そこで、宣言をとりまとめた佐伯年詩雄氏が、さまざまな分野からゲストを迎え、共に語り合いながら宣言の全容を自らひも解いていく。(全6回)

一歩踏み出すための「スポーツ宣言日本」(Vol.1掲載記事)
公正で福祉豊かな地域をつくるスポーツ(Vol.2掲載記事)
環境と共生するライフスタイルの創造に寄与するスポーツ(Vol.3掲載記事)
スポーツで築く平和と友好に満ちた世界(Vol.4掲載記事)
「スポーツ宣言日本」への期待 ―スポーツミッション達成のための戦略と連携(Vol.5掲載記事)
「スポーツ宣言日本」とスポーツの価値 ―そのミッションとビジョンで未来を拓く(Vol.6掲載記事)

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