スポーツで築く平和と友好に満ちた世界 ※平成24(2012)年11月発行のSports Japanに掲載したものです

スポーツを通じてお互いを理解し合う

佐伯
   セカンドキャリアの調査でフランスへ行き、金メダルを取ったフェンシング競技者の話を聞きました。すると、「その話だったら僕の友だちを紹介する」といって、すぐに決勝で戦ったドイツの競技者に電話してくれました。「彼はずっとライバルで、ずっと友だちなんだ」そうです。本当に真剣に戦ったからこそお互いに理解できる。そういう経験をお持ちだと思いますが。

成田
   はい。初めてパラリンピックに出場したアトランタ大会で出会ったドイツのカイ選手。ずっとライバルとしてメダルの数を競い合いました。最初は負けていましたが、シドニーで金6個、銀1個を取って彼女を上回り一応目標を達成できました。ところが2年後、34歳の若さでカイは亡くなりました。アテネ大会で私、金を7個取ってそのうち6個が世界新でした。残る1個はカイ選手の記録を抜くことができなかったのです。翌年ドイツへ行き、カイのお母さんにお墓に連れていってもらい、カイの墓前に金メダルを1個、置いてきました。

山下
   思い出すのは1980年のロサンゼルスオリンピックのとき。2回戦で西ドイツ(当時)の選手と戦ってケガをしました。控え室に帰って私が患部を冷やしたり治療を受けているところへ彼はやってきました。あまり英語が上手くない選手でした。申し訳なさそうな顔で、「俺が何か変なことをしたか? 俺が何か悪いことをしてお前ケガしたのか?」って聞きます。いや全部俺のせい、お前は何もしていない。俺はまだ頑張れるからと言うと、やっと笑顔になって。これから一緒に頑張ろうと握手して別れました。あのラシュワン選手も、オリンピックの表彰台に上がるときに私の足のケガを気遣ってすぐに手を差し伸べてくれました。真のトップアスリートこそパフォーマンスもすごいけれど、そうした振る舞いを大事にしているのではないかと思います。

 
佐伯
   スポーツというものは、他者を理解するひとつの重要なメディアなんだということがよく理解できるお話ですね。山下さんがパレスチナのほうで子どもを集めておやりになっていることも紹介してください。
 
山下
   2年前に教え子の井上康生と一緒にイスラエルとパレスチナを訪問しま
した。最終日にエルサレムで両国の子どもたちを招いて柔道教室を行ったのですが、イスラエルの子はみんな柔道着を持って来ましたがパレスチナの子は上着だけで下は短パン姿でした。同行取材した放送局の人がそのことを指摘したので私が怒っていたら、畳の上では子ども同士、組み合って、力差はあるのですがちゃんと子どもの練習らしく投げたり投げられたりしていて、それを見て私も井上康生も放送局の人も胸が熱くなりました。そのときに約束して、両国の中学生たちを日本に招待しました。移動中のバスでも、最初は両者の間にガラッと空いたスペースが生まれていたのですが、だんだん距離が縮まっていき、最後はみんな一緒に写真を撮りました。歴史的に悲惨な関係ではありますが、参加したコーチたちも、実は互いに10分もかからない所に住んでいるのです。その後日本に招いた指導者たちからは、「お互い近いので少し交流を」という話になったと聞きました。

清水
   やはり話を聞いていると、みなさんは卓越した経験をされているんですね。そういうものを伝える、あるいはこうして自ら発言していくようなことを、もっと大事にしなければと思います。

佐伯
   確かに国家間の争いや関係が非常に難しいときほど、スポーツが力を発揮する可能性があります。いままではそういう活動をあまりやってこなかったのですが、国際競技団体はNGO(非政府組織)の最たるものですから、力を合わせれば国家の枠を超えて、この3番目のミッションを達成することも不可能ではないと思います。

スポーツ界だけでなく活動を国内外へつなぐ

佐伯
   このミッションを達成していく上で、日体協、JOCあるいは日本のスポーツ界はどんな取り組みから始めるべきだと思いますか。

成田
   やはり発信していくことですね。私、残念だなと思ったのは、今回ロンドンオリンピックのメダリストが銀座をパレードしてあれだけ大勢の人が集まったのに、パラリンピックのメダリストのパレードはまったくなかったこと。パレードで注目してもらうことも重要だと思っていましたので。ですからみなさんがスポーツを語ったり活動したりするときに、できれば私たち障がい者のスポーツも思い起こしていただけるといいなと願っています。スポーツは特別な人だけがするのではなく、老若男女誰しもできる、もしくはしているということを知ってほしいと思います。

 
山下
   所轄官庁が違っても、SPORTS FOR ALLですからね。私はこの宣言、ミッションが実現することをこころから願います。方法論としては、上から言うのではなく、例えば県レベルや競技団体レベルで、すべてのスポーツ団体、加盟団体を巻き込みながら進めていただきたいと思います。
 
清水
   この宣言は戦略ビジョンでもあると思います。だから毎年いろいろな戦略をプロジェクトとして立て、その活動を国内、国外につないでいくことが必要ではないかと思います。それをスポーツ界だけでなく、広く国民のみなさんに分かる形で、日体協というところはこういうふうに動いていますと伝えていく。成田さんが言われたように、日体協やJOC自身が発信の母体となっていろいろなメッセージを出していく。そういうダイナミクスが出ると変わってきたんだなと、なっていくのではないでしょうか。

 
佐伯
   今日は、具体的な体験や提案もあり、とてもいいお話でした。宣言の言うミッションの達成に向けて、今後も尽力ください。どうもありがとうございました。


【座談会出席者】

左から、
清水 諭氏(筑波大学教授)
山下 泰裕氏氏
成田 真由美氏(パラリンピアン)
(東海大学理事・副学長/神奈川県体育協会会長)
佐伯 年詩雄氏
(日本ウェルネススポーツ大学教授)

※所属・役職は座談会当時のものです。

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