スポーツリスクマネジメントの実践 ― スポーツ事故の防止と法的責任 ―
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35 コラム③ 免責同意書の効果 スポーツサービス(教室や大会等)を提供して、その対価を頂く地域スポーツクラブは、世の中では「事業者」という立場になります。一方で会員(参加者)はお金を払ってそのサービスを受ける「消費者」という立場になります。ですからたとえ地域スポーツクラブの活動といえども、行っていることは事業者と消費者との取引(契約)と何ら変わりはありません。このような事業者と消費者との取引(契約)においては、様々なルールが存在します。地域スポーツクラブもこれらのルールを遵守しなければならないのです。 地域スポーツクラブがまず事業者としてやらなければならないことは、消費者に対してそのサービスの内容や危険性等をしっかりとわかり易く、事前に説明することが求められています。クラブは入会にあたり、クラブ活動としての注意事項等をしっかりと説明する必要があるということです。 具体的には、入会規約等、会員(参加者)向けの注意事項を必ず作成しましょう。入会時に必ず説明し、そして書面で渡すと同時にクラブのホームページがあれば、その画面にも掲示し、いつでも見ることができる状況にしておきましょう。 入会規約等を作成すると必ず入れたい文言があります。それは「当クラブで起きた事故や怪我の責任は一切負いません」。これは事故や怪我等があった時に、この文言さえあれば、何とか責任を免れるのではないか、という期待から記載することがよくあります。これは「免責同意書」と言われ、誓約書のような形で一筆書かされることも少なくはありません。ではこのような免責同意書さえ先に取っておけば、事故や怪我が起こった場合、その責任を本当に負わなくてもいいのでしょうか? 実際の責任問題では、単にこの一文があるからと言って、無条件にその責任を負わなくてもよい、というわけではありません。実際に事故や怪我が起こった原因、その他すべての事情を考慮してその責任を問うというのが本来の考え方であるため、この免責同意書の一文さえ取れば、何ら責任を負わなくてもよいと考えるのは、リスクマネジメントの観点から言えばあまり好ましいものではありません。 この免責同意者は会員(参加者)への注意喚起程度に使用する方がいいでしょう。入会時にこのような説明がされた、又は一筆を書かされたということが会員(参加者)の記憶に残り、スポーツ活動中に会員(参加者)が、自ら事故や怪我に関して注意する意識を持ってくれるだけで、この免責同意書の効果は十分です。実際に事故や怪我が起こった場合、この免責同意書の一文だけでその責任の所在が判断されるのではなく、事故や怪我が発生したすべての事情を考慮されます。ですからスポーツ指導者は安全に配慮する義務を怠らず、事故や怪我が起こらないよう十分注意をしながらスポーツ指導することが求められているのです。

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