スポーツリスクマネジメントの実践 ― スポーツ事故の防止と法的責任 ―
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25 コラム② ボランティア指導者の責任 日本の地域スポーツは、ボランティア指導者の方々の協力があって成り立ってきたといっても過言ではありません。またオリンピック大会やW杯などの世界的なスポーツイベントを見ても、必ずボランティアの方々の活躍を目にします。スポーツにとってボランティアは切っても切り離せないものなのです。 現状でも多くの地域スポーツの現場ではボランティアや実費程度の費用でスポーツ指導を行っている指導者が数多く存在します。ではこのようなボランティア指導者が起こしてしまった事故や怪我の責任はどのようになるのでしょうか。 実際、お金をもらっていないボランティア指導者だからと言う理由のみで、これらの責任すべてが無条件に免除されるものはありません。ボランティア指導者であろうと、その指導内容、方法において明らかに安全に対する配慮が足りないと判断されれば、その責任を問われる可能性は十分あるのです。 スポーツ指導者と会員(参加者)との間にはスポーツ指導契約が交わされています。特に契約書などを交わさなくても、入会という行為自体が契約を交わしていることになるのです。一度、契約が交わされれば、スポーツ指導者には、会員(参加者)に対して安全に配慮する義務が生まれます。この責任はスポーツ指導者ならば免れることはできず、必ず課せられる義務なのです。この安全に配慮する義務は、報酬の有無によって違いがあるということではありません。たとえ無償(ボランティア)であったとしても、スポーツ指導者はこの安全に配慮する義務を負うことになるのです。 ボランティア指導者として注意しなければならないことは、たとえ自分が報酬を貰っていないとしても、通常の指導者に求められる責任があるという意識を忘れないことです。ボランティアだから適当でいい、手を抜いていいという軽い気持ちではなく、しっかりと安全に配慮して指導をしなければなりません。また、ボランティアを保護者などにお願いする場合にも注意が必要です。「気軽に何の心配もなくお手伝して下さい」と言うわけにはいかず、ボランティアだとしても「しっかりと責任感を持って指導して下さい」と注意を促さなければなりません。さらにこのような場合、保険の加入はどうしているでしょうか。通常であれば会員及びクラブの指導者は、スポーツ活動中の事故や怪我に備えて、何らかの保険に加入していると思います。しかし善意で参加してもらっているボランティア指導者には保険をかけていないということも少なくはありません。 スポーツの発展にボランティア指導者の存在は欠かせません。しかし、いざ何かあった時に、その責任がボランティア指導者に重く圧し掛かってくるようでは、今後のスポーツ界の発展は望めないでしょう。今後、しっかりと「ボランティア指導者」の法的な立場というものを理解する必要があるのです。

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