スポーツリスクマネジメントの実践 ― スポーツ事故の防止と法的責任 ―
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23 【ケーススタディ②】 会員の親(会員)が練習に参加しているとき、子ども(非会員)がケガをした場合 子ども(非会員)はクラブの管理下にはありません。従ってこの場合には、基本的にはクラブに法的責任は生じません。 危険個所を明示する、事故が発生した場合の責任はクラブには生じないなど、クラブは会員に対して明確に説明しておく必要があります。 【ケーススタディ③】 現在、クラブに所属していないOB、OGの指導ミスで、会員がケガをした場合 基本的には指導ミスを起こしたOB、OGが賠償責任を負うことになります。クラブとOB、OGとは正式な関係がないためです。 5 応急処置に関する法的責任 会員がケガをした場合、手当に失敗して悪い状況になって責任を問われるのを回避したいという考えから、敢えて応急手当を行わないという指導者がいます。しかし、この考えは誤りです。 刑法37条の緊急避難、または民法第698条の緊急事務管理に相当するものであり、応急手当(人工呼吸、AEDによる除細動、止血など)を実施することは、たとえ結果が悪かったとしても、それは悪意や重大な過失がなければ、法律上は手当の施行者が刑事責任を問われたり、損害賠償責任を問われたりすることはありません。 逆に、指導者やクラブには会員などの生命身体を守る任務があります。生命の危険がある場合には、可能な限りの応急手当を行うよう努めなければなりません。これは民法第697条の管理者の管理義務、および民法第700条の管理者の管理継続義務によるものです。すなわち、自らが行うことが可能な応急手当を指導者やクラブが怠った場合には、法的責任を問われる可能性があるということです。 【事例】 2003年7月、当時高校1年生のAさんはバレーボール部の練習中、体育館でネットに引っかかって転倒し床に後頭部を強打、3日後に硬膜下血腫で死亡。 Aさんの両親は、「顧問教諭がすぐに医師に診せるべきだった」として、学校に対して約1億1,000万円の損害賠償を請求。 学校側が事故を風化させないためAさんの名前を冠した球技大会を年1回行うことなどを条件に和解が成立(2009年7月)。金額は非公表。 (参考) 【刑法37条】(緊急避難) 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

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